矯正の治療期間は、短縮出来るのでしょうか?

安全に治療期間の短縮を目指す試み

治療期間をなるべく短くする試みは、色々と研究されています。不正咬合の種類、程度、年齢、歯ぐきや個々歯の状態によって矯正の治療期間は様々ですが、あなたの歯並びや治療目標に応じた矯正法を組み合わせる事によって安全に治療期間の短縮を目指す試みが色々あります。

「矯正の治療期間を変えることは出来るの?」、「短期間の治療?」、「accelerated orthodontic tooth movement」って?

現在国際的にも人気の治療法で、英語では、「accelerated orthodontic tooth movement」 と正式に表現されていますが、日本では「加速矯正治療」や「短期期間の矯正治療」と言われています。

この方法は、一般論で申し上げますが、歯の周囲のあごの骨の新陳代謝を促進して安全にかつ短期間に歯を移動させようとする試みです。成長期の子供達は、新陳代謝が旺盛の為歯の移動も早く、治療期間が延長しにくいですが、子供と比較すると成人の場合、新陳代謝がやや劣り気味です。その為、成人矯正は、時間がかかる、治療期間が少し伸びるなどと言われている所以です。そこで成人の方の新陳代謝を活発にしながら矯正治療を行うことが出来るのかということが世界中で研究されています。

歴史は古く今まで色々な方法が提案されていますが、近年新たなる基本原理が幾つか発見されました。それに伴い2000年以降、欧米各国で更なる研究が進められ、新しい術式や治療法が再確立されてきている矯正学分野です。近年、各国の矯正学会主催の学術大会では、必ずトピックとして取り上げられ、様々な研究や議論がなされています。2016年アメリカ矯正歯科学会では、「new frontier in accelerated orthodontics」,「accelerate tooth movement」と2日間にわたり特集も組まれました。またJCO(journal of clinical orthodontics)による欧米の矯正専門医へのアンケート結果では、短期間の矯正治療法を「症例によって選択」または「ほとんどの症例で」使用していたと答えた矯正医が62%にも及び(2014年時点)、現在では更に多くの矯正医が適応しています。日本国内では、まだまだ認知度が低い方法ですが、すでに欧米の矯正医では、一般的になっている短期間の矯正治療治療法です。

どのようなものが世界中で研究されているのか参考までにご紹介

レーザーを応用した矯正治療法

レーザーを併用した矯正治療法

歯に矯正力をかけると歯根膜に炎症反応が生じ、その結果、発痛物質が放出されながら歯の移動が始まります。レーザーはその発痛物質の代謝(消失)を促進し、矯正治療中の痛みの減弱・改善に役立ちます。 また血流・血行の改善、骨のリモデリングに対しても効果を認め、歯の周囲骨の代謝を促進し、歯の移動を早める効果があります。副作用はなく安全な治療法です。しかしながら除痛効果や歯の移動を早める事を目的とする場合のレーザーは、種々あるレーザーのなかで、組織侵達性の高いもの、出力、作用時間、照射面積等様々な調整が重要です。注意点としては、やみくもに何らかのレーザーを照射しても、望んだ効果は全く上がりませんので、目的ごとのレーザー使用が必要です。

レーザー治療って何?

レーザー治療は、レーザーを照射することによって起きる生体(身体)の反応を利用して行っています。

例えば、太陽光には、赤外線や紫外線、可視光線などがあり、寒い日に太陽光を浴びると光エネルギーによって身体は暖かくなります。これは、太陽光によって身体に光熱反応が起きたからです。しかし過剰に浴びると、紫外線によりメラニンが過剰に生成され日焼けが生じます。

治療に使われる医療用レーザーの作用も同様の原理です。レーザー治療は、皮膚科、形成外科、整形外科、外科、眼科、歯科等、医科・歯科を問わず様々な分野で臨床応用されています。レーザーの波長も様々で何百種類ものレーザー機器があります。目的に応じて使い分けされています。

LEDの光線を応用したもの

LEDの光を歯ぐき表面に照射し歯の移動を促進させる治療装置です。アメリカ食品医薬品局(FDA)(日本ですと厚生労働省のような位置づけ)から認可を受けています。使用時痛みや違和感などは、ほぼ生じません。また副作用の心配もありません。 ご自宅や外出先でも、どこでも使用可能です。またスマートフォンを使って使用実績や治療データの蓄積まで可能です。現時点でのこの装置の欠点は、光の照射範囲がまだ狭いこと。治療計画によっては、単体使用では効果が薄い可能性の方もおります。

サイクリックフォース (vibration)を応用した矯正治療法

バイブレーション装置併用法

整形外科領域では主に骨折の治療に超音波骨折治療器が用いられています。患部に一定のバイブレーションを与えることによって治癒が早まること、また骨折部位が丈夫になる等の報告がなされています。日本国内では、保険適用されている整形外科用の治療器具です。実はサッカーイングランド元代表のベッカムも足を怪我したときに使用したとか。

矯正歯科領域でも、このような超音波治療器を矯正治療に応用したところあごの骨の代謝が向上し歯が速く動いたとの報告がなされています。この発見以降、歯の移動に適した周波数、バイブレーション域などの各研究が進み、現在では、短期間の矯正治療専用のバイブレーション装置が発売され世界各国で使用されています。

振動を利用したもの

ソフトパルステクノロジーという優しい振動を通じて骨のリモデリングを促進させる装置です。2009年からヨーロッパとオーストラリアで発売が開始され、2012年には、FDAアメリカ食品医薬品局(日本ですと厚生労働省のような位置づけ)から認可を受けアメリカでも発売が開始されました。使い方は一日20分くわえるだけ、歯にやさしい振動で装置の重さもわずか39グラムと軽量、ハンズフリーで使用できます。日常生活の中で読書しながら、テレビを観ながら、パソコンしながら、勉強しながらと「ながら使用」が可能な装置です。

外科的な手法を応用した矯正治療法

(1)コルチコトミー併用法

コルチコトミー(皮質骨骨切開術)とは、歯を支える歯槽骨の表面にある骨に少しすじを入れ、歯を動きやすくする方法です。

あごの骨に限らず、骨というのは、外側が非常に固い(皮質骨といいます)のですが、その内部は髄といって血液や柔らかい軟骨で満たされています。またその血液の中には、様々なサイトカインが含まれそれぞれ色々な役割を果たしています。その外側の皮質骨に少量のすじを入れる処置をコルチコトミーと言います。

(2)コルティシジョン・ピエゾシジョン・ピエゾパンクチャー・併用法

コルチコトミーの変法で、呼び名は、コルティシジョン(特殊なメスにより歯ぐき、歯槽骨に切り込みを入れる術式)、ピエゾシジョン(歯ぐきを大きく切開せずにピエゾサージェリーを使用しコルコトミーを行う術式)、ピエゾパンクチャー(歯茎を大きく翻転せずピエゾトームという装置を使って歯茎の下部でコルチコトミーを行う術式)等、様々な変法が出てきています。

元々の基本原理はコルチコトミーと同一で、骨にすじ、切れ込みを入れますが、どの方法も多少の差はあれど、コルチコトミー原法の外科侵襲を減らす目的で、大きな歯ぐきの切開・剥離を行わないものから、全くのフラップレス法(歯茎の切開をしない)を取り入れたものや骨に切れ込みを入れる手法がコルチコトミー原法よりより安全でより侵襲の少ない器具を用いる術式に変わってきています。

(3)PAOO,PAO

PAOO, AOOは、2000年ころから本場アメリカでも人気急上昇の治療法です。アメリカ矯正歯科学会のみならずアメリカ歯周病学会でも世界の注目を浴び、現在世界的に研究、治療が進められています。

この方法はアメリカの歯周病専門医と矯正専門医の兄弟であるDr. ウィルコが開発、歯を動かし始める前に歯槽骨の部分に、歯周再生治療に似た治療を行い、骨代謝活性を高めて歯を動かす再生医療分野を取り入れた治療です。

特徴は、やせた歯ぐきの原因である歯槽骨(歯ぐきの下の骨)の骨の量を増加させ、治療前よりも健康な歯ぐき、歯槽骨状態に誘導するということが一番の目標です。元々歯周病の治療用に研究、開発された治療法ですので、歯並び、かみ合わせが良くなるだけでなく、歯ぐきや歯の為にもよい治療法と言われています。

矯正治療を諦めていた方にもお勧めで、成人矯正や歯周治療にはすぐれた効果を発揮いたします。

PAOO・AOOを用いた矯正治療のメリット・デメリットは?

<メリット>
PAOOは、歯並び、かみ合わせを治療するだけでなく、歯を支える骨がやせている方、歯茎に不安がある方、歯茎までも健康な状態に誘導することを目的とする再生医療を取り入れた歯周再生矯正治療です。成人で、不正咬合がある場合、歯並び、かみ合わせが悪いだけでなく、不正咬合の為に歯茎やその下の歯槽骨(歯を支える骨)までもにダメージがある方がほとんどです。通常の矯正法だけでは、歯並び、かみ合わせの治療は可能ですが、歯槽骨や歯茎のダメージの回復までの歯周再生治療は困難です。また、歯並び、かみ合わせが良好になるだけでなく、歯茎、歯槽骨(歯を支える骨)は、治療前よりも丈夫になります。それによって矯正後の後戻り量が減少するという報告もあります。

再生医療の分野は、組織工学(ティッシュエンジニアリング)など各方面の研究が世界的に進んでいます。今まででは考えられなかった次世代の治療を行えるようになってきています。再生医療は、歯科分野では、歯周再生療法、インプラント、医学分野では整形外科、形成外科、外科など各医療分野でも応用されてきている高度先進医療です。

<デメリット>
コルチコトミーやPAOOのような外科的な手法を取り入れた矯正治療の術後の歯茎の腫れ、痛み、また施術時の恐怖感などです。

◆ コルチコトミー、PAOO等の外科的治療について
施術時間は、正味2時間程度の治療です。侵襲は、普通の親知らずの抜歯程度と考えてください。当日、日帰りで施術可能です。また治療手当日から食事も可能です。歯茎表面の傷口は約3日程度で治り初め、約1週間程度で治癒します。術後から3~4日程度歯茎や口唇に腫れを伴います。1週間程度で痛みや腫れが引き、傷口も治癒します。

(4)マイクロパーフォレーション併用法 MOPs

MOPs は、歯肉の大きな切開と剥離をしないで歯肉と骨に小さな微小骨穿孔(Micro-Osteoperforations)を付与し歯の移動を促進させる治療法です。MOPsは、コルチコトミーほど一回の効果は大きくありませんが、侵襲性(腫れや痛み)が少ないというメリットがあります。

また選択的に歯の移動を早めることが出来る治療法の為、適応となる歯並びの方は多いです。コルチコトミーやPAOOに興味をお持ちの患者様で「痛そう」、「腫れるのは避けたい」という声を耳にすることがありますが、そのような方にもおすすめの矯正治療法の一つです。

(5)治療期間が短縮する「サージェリーファースト」を併用した治療期間の短縮

歪んだあごと修正されたあご

サージェリー・ファースト(Surgery First)法は、手術に伴う骨代謝の変化を利用し手術後の歯の移動の加速現象を使い治療期間の短縮を行います。

(6)オステオトミー併用法、Jaw(Orthognathic)Surgery

骨離断手術を伴う外科的矯正治療法で、顎骨を離断する治療法と矯正治療を併用して行う治療法です。

(7)その他のaccelerated orthodontic tooth movement

ビタミンC、Dなどの薬剤を投与する方法、プロスタグランジンや骨芽細胞など成長因子の注射、などがあります。

矯正用アンカースクリュ―を応用した矯正治療法

まずインプラントと聞くと、歯が抜けた後、入れ歯の代わりに埋め込む人工歯根・デンタルインプラントを想像される方もいるかも知れませんが、矯正治療で使用するインプラントは、矯正治療中にのみ一時的に使用するマイクロインプラントと呼ばれるものでインプラントとは呼ばれていますが人工歯根として使用されるデンタルインプラントとは全くの別物です。

短期間の矯正治療の基礎知識と注意点

矯正治療の中には、ちまたで、「治療期間を短期間にできる」ということが重点的にアピールされている治療法があります。そのような治療法は通常の矯正治療と比べて様々なプラスアルファのメリットがあるのは確かなのですが、必ずしも治療が劇的に短期間にならないケースもあります。短期間の矯正治療をお考えの場合、まずその基礎知識や注意点などについて知っておくことが大切です。