コルチコトミー併用法

コルチコトミー(皮質骨骨切開術)とは

コルチコトミー(皮質骨骨切開術)とは、歯を支える歯槽骨の表面にある骨に少しすじを入れ、歯を動きやすくする方法です。

あごの骨に限らず、骨というのは、外側が非常に固い(皮質骨といいます)のですが、その内部は髄といって血液や柔らかい軟骨で満たされています。またその血液の中には、様々なサイトカインが含まれそれぞれ色々な役割を果たしています。その外側の皮質骨に少量のすじを入れる処置をコルチコトミーと言います。

これらの処置の結果、すじが出来た部分を修復する為に新しい骨の細胞が多数出現してきます。結果として細胞のレベルで代謝が活発になる、また骨の成分が一時的に変化を起こし歯の移動が加速されることが証明されています。

これらの作用は、もともと整形外科領域で発見された現象ですが、現在では整形外科以外の様々な分野で臨床応用されてきています。

また歯科においては、コルチコトミー併用法は現在においてもなお最先端の治療法の一つですが、1893年にDr.ブライアンがアメリカ矯正歯科学会で「ヨーロッパにおける不正歯列の外科的矯正法」という演題でコルチコトミーについて発表、翌年には、Dr.カニングハムが「皮質骨切除と歯の移動」という発表し、歴史的にみると随分以前より応用されている治療法ですが、新たな原理が発見されたことによって再研究が進んでいます。

近年ではアメリカだけでも、ハーバード大学、ボストン大学、ニューヨーク大学の歯周病学講座や矯正学講座などで更なる研究結果が次々と発表され、治療法としては世界的に確立された術式です。現在ではコルチコトミーの欠点を補う低侵襲性の治療法も確立され、現在では後述する侵襲性の少ない(腫れ、痛み、傷口の少ない)コルチコトミー変法を使用することが多くなってきています。

◆ 矯正治療コラム

「安全にコルチコトミー等、外科的手法を併用する矯正治療の受診法」

日本国内においては、矯正のみを行う歯科医院、もしくは一般歯科医院内でのアルバイト矯正Drによる矯正治療、または一般の先生による矯正治療が行われているのがほとんどです。質の高い治療効果を得るためには、矯正歯科の知識、技術、経験はもちろん、高度な外科的手法、設備が必要ということ、また矯正だけの知識だけでなく歯周治療、歯周再生療法、顎離断手術等の口腔外科の専門知識、技術、設備も必要で、この両面の基準を満たす医療機関での治療がお勧めです。

外科手術を併用する矯正治療を受診される場合には、あなたの矯正担当医が矯正以外の歯周、歯周再生療法や外科的な学問を継続して学ばれているのか、日本国内だけでなく海外等の関連した専門学会にも継続して参加しているのか、担当医が実際のオペにも関与しているのか(重要:矯正医以外の他人にオペを丸投げしていないか。矯正医は、治療計画を立案し治療を実行するDrです。

歯の移動を計画しているDrが実際の口腔内を確認しながら移動に見合ったオペを行うのが鉄則なのです。)等、矯正+歯周病学・外科学等の知識力、技術力、医療機関の状況も確かめてから受診されることをお勧めします。

コルチコトミーを用いた矯正治療のメリット・デメリットや注意点は?

メリットや良い点は、「治療期間」に制約がある方に最適な治療法であるという点です。また歯の動きがスムーズになるので治療中の痛みが少なくなること、患者様によっては抜歯の回避が可能になるケースも考えられます。

その他、良い点は色々なサイトや書籍で確認できると思います。しかしながらデメリットを詳しく記載しているものは比較的少ないように感じられます。
そこで今回はデメリットや注意点について詳しく記載させて頂きます。13年もの経験から直接感じた内容や経験ですので、当院の生の情報です。

成長期の子供には対応しない方が良いでしょう。あくまで新陳代謝が劣っている成人用とお考えください。

外科手術ですので患者様によっては精神的な負担が大きい場合があります。その場合には、通常のコルチコトミーよりも外科侵襲の少ない変法を用いるか、外科治療を応用した矯正治療ではなく、その他の原理を応用した矯正治療を選択なさると宜しいかもしれません。

手術の侵襲量は、成人で中等度以上の歯周病の場合、歯周病治療の為に歯周外科手術や歯周再生治療を行う事がありますが、これらの手術とほぼ同一です。また処置時間は、親知らずを抜くときと同じくらいの処置時間です。術後数日間、歯ぐきと唇周囲の腫れが生じますが、約1種間程度でほぼ傷口は治癒します。

一番のデメリットは術後の腫れと疼痛です。親知らずの抜歯後の頬の腫れと痛みと同程度です。

術後、感染防止の為に抗生物質と痛み止めをお渡しさせて頂きます。通常の消炎鎮痛剤は、服用しないようにしてください。その理由は、通常の消炎鎮痛剤には歯の移動を妨げる作用が含まれている為です。当院でお渡しさせていただく消炎鎮痛剤には、歯の移動を妨げる作用がない短期間の矯正治療に適した安全な鎮痛剤をお渡しさせて頂いておりますのでご安心下さい。

一番注意をしなくてはいけないことは、術後の感染です。処置後は、安静に、また患部を清潔にしてください。もし感染してしまうと歯ぐきの傷の治りが遅くなること、さらには顎の骨にまで感染が及んでしまった場合、感染部の骨の治癒待ちの為に歯の移動が遅くなる可能性があります。30年の経験(2020年現在)の中で1例に骨の表層に感染が及んでしまったことがあります。その理由として、その患者様は、術直後より喫煙をしてしまったこと、また患部を強い力でブラッシングしてしまったことなどが考えられました。通常1週間程度で治癒するものが、約3週間程度かかりました。傷も無事治癒し、また歯の移動も予定通り行われ無事治療は終了していますが、コルチコトミーの効果が半減してしまったという苦い経験があります。

ウェブ上では、コルチコトミーを行うと歯ぐきが痩せる、ブラックトライアングルになるとの情報も多く見受けられます。手術によって歯ぐきが痩せる事や手術によってブラックトライアングルになることはありません。当院で治療をお受けになった方でそのような状況になった方は一人もおりませんので安心してください。当院で用いている手術の術式は、元々歯ぐきや歯の周囲の顎の骨を健康な状況にするために行われる歯周外科術式(歯ぐきへの切開線の入れ方、歯ぐきの剥離の仕方、歯ぐきのフラップの戻し方、縫合法など)を用い、かつ歯周形成外科の術式の一部である歯間乳頭(歯と歯の間の歯ぐき)保存術を採用しています。一方、歯周外科治療に精通していない医師による手術では、危惧されている問題を生じる危険性がありますので、担当医の技量をチェックする必要があります。

コルチコトミーは、皮質骨切除術とも言われています。その名のとおり、口腔外科手術です。多くの神経や血管の集まる口腔内の手術を行います。当院での手術後麻痺を生じたケースや、動脈を損傷し血管縫合が必要となってしまったようなケースは1例もございませんが、セカンドオピニオンでいらした他院の患者様が麻痺を伴ってしまっていたケースがありました。歯ぐきの剥離の仕方や骨へのすじの入れ方等に過ちがあった場合、唇付近の感覚麻痺(通常、運動麻痺は生じませんが、、、)などが一定期間生じることも考えられます。またあごの骨の中を経由する動脈などを見過ごし、切断や傷をつけてしまった場合、より重篤な問題に移行してしまう危険性も考えられます。歯周外科分野と口腔外科分野の熟練したテクニックと豊富な専門知識が要求されます。日本では、施術ができる医院はまだ限られていますのでドクター選びは慎重にしなければなりません。